スキマ時間にパッと読める、短編集の愉しみ。【いまだからできること#2】
テレワークなどで自宅にいる時間が増えた、という方も多いだろう。この機会に、本を読もうか、「積ん読」だったあの本を――と意気込む方もいるのでは? 考えられる選択肢はまず、分厚い本や全集もの、あるいは名作マンガの一気読み。ま、それもいいけれど、今回お薦めしたいのは、短編集だ。自宅にいるといっても、仕事も家事もあるし、家族や同居人がいればなおさら、集中してひとつのことに没頭するのは意外と難しいもの。その点、短編ならば、スキマ時間にぱっと読める。1話、あるいはキリのいいところまで読んで、さっと次の行動に移れる。さらにいいことには――1冊読み終わって数年(いや数か月?)経つと、内容のほとんどを忘れている(笑)。というわけで、何度でも美味しく楽しめちゃうのだ!
じゃあ、どんな短編集がいいか? イチ押しは、アンソロジー。博覧強記の手だれの編者が、味わいの異なる書き手の物語を集めて、最高のコース料理に仕立ててくれるのだから間違いなし。その王道がミステリだ。2020年3月に第2巻が出たばかりのシリーズ『短編ミステリの二百年』(創元推理文庫)は、時代別に逸品を選りすぐった、名作新訳プロジェクトの一環。これ、内容も濃いのだが、小森収による解説がまたすごい。第2巻では収録作品413ページに対して、解説がなんと244ページ! うっかり解説を先に読んでしまうと、その面白さで本編も(第1巻すら、そして収録されていない他の名作すらも)読んだ気になってしまうので要注意。
異色なところでは『ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29』(新潮社)を。英語圏の読者に向けて編まれたテーマ別・日本文学アンソロジーの、いわば逆輸入版だ。海外で和食のコースを食べるような“再発見”の愉しみもあるし、若い読者には、永井荷風や森鴎外の世界はもはや同じ国の人が書いたものというより、いっそ他国の古典の翻訳のように思えるのかも。
いままで手に取ることのなかった作家と出会えるのがアンソロジーの魅力だけれど、好きな書き手の知られざる短編との出合いも、また楽しいもの。『ここから世界が始まる~トルーマン・カポーティ初期短篇集』(新潮社)は、「早熟の天才」カポーティの未発表の短篇をまとめたものだ。高校生の時に書かれた作品の力量には、まったく舌を巻く。が、一方でアマチュアらしい未熟さ、瑕疵、話の展開上の矛盾なども見てとれて(そう感じとれるよう翻訳した訳者の巧みさにも拍手を贈りたいが)、なんだか愛おしい。時代を追うことでひとりの書き手の成長が感じられる、そんな短篇集もいいものだ。
最後に、アンソロジーで忘れてならないのはSFの世界。これは、アイザック・アシモフや星新一をはじめ名だたる名編者の傑作が多数、刊行されている。版元じたいが目利きである早川書房や東京創元社のサイトが選書の手助けになるだろう。
もちろんこれら以外にも、歴史に恋愛、警察にアウトローにユーモアにホラーに冒険などさまざまなジャンルで、優れた短篇集はたくさんある。気軽に読めて、一瞬で異世界に連れていってくれるから、気分転換にぜひどうぞ。(編集YF)